都道府県から日本を散歩する
長野県
ながのけん
長野県は本州中央部の内陸に位置し、県庁所在地は長野市です。北アルプス、中央アルプス、南アルプス、八ヶ岳、浅間山などの山々に囲まれ、千曲川、犀川、天竜川、木曽川がそれぞれ異なる海へ向かいます。盆地、谷、峠、高原が連続し、一つの県内で水の流れる方向が変わります。川沿いの段丘、宿場の坂、用水、山村の石垣を歩くと、山の間に平地を見つけて町と畑を置いてきたことがわかります。
古代には信濃国が置かれ、東山道が峠を越えて各地を結びました。善光寺への信仰は広い地域から人を集め、参道と宿が形づくられました。中世には武士が谷や盆地ごとに拠点を築き、山城と街道が結ばれました。戦国期の川中島合戦に関わる史跡、松本城や高遠城などの城跡、寺社の門前を歩くと、盆地の入口や川の渡りが軍事と交通の要所だったことが見えてきます。山中には修験、木地師、鉱山、馬の道の歴史も残ります。
近世には中山道、北国街道、甲州街道、千国街道などが整えられ、宿場町が旅人と荷を受け入れました。木曽路の石畳、妻籠宿や奈良井宿の町並み、峠の一里塚を歩くと、山道を越える旅がどのような速度で進んだかを想像できます。各藩は用水と新田を整え、山林、養蚕、紙、漆器、木工を支えました。明治以降は製糸業が広がり、諏訪湖周辺や各盆地に工場と女工の寄宿舎が置かれました。旧製糸場や鉄道沿いの倉庫には、山国の農村と近代産業が結びついた時間が残ります。
そば、おやき、野沢菜漬け、凍み豆腐、寒天、味噌などは、寒さと保存、畑作の暮らしに根ざします。りんご、ぶどう、あんず、くるみなどの果樹は盆地や山麓に広がり、山の水は酒造りやわさび栽培にも使われます。木曽漆器、松本家具、飯山仏壇、上田紬などの手仕事は、森林、養蚕、街道、寺社と結びつきます。市場や工房を歩くと、山から得た素材が日用品へ変わる工程が見えてきます。
長野県を歩くなら、著名な山頂だけを目指すより、川沿いの町から峠へ、宿場から田の用水へ、門前から裏山の道へと足をつないでみるとよいでしょう。盆地の朝霧、峠を越えたときの風、川の向きが変わる場所を身体で確かめると、県内の地域が山で隔てられながら道で結ばれてきたことがわかります。古い家の深い軒、石置き屋根の跡、道祖神、馬頭観音に目を向けると、歩く人と働く人が長く使ってきた道の時間が静かに残っています。
また、温泉地の共同浴場や高原の牧道、諏訪湖畔の社を歩くと、地熱、湖、山の水が暮らしの場所を選んできたことがわかります。季節によって閉じる道や雪形を読む習慣にも、山国の時間が残っています。
郷土料理・ご当地グルメ
この地域で親しまれている味を24件紹介します。おやき
小麦粉やそば粉などを水や湯で練った皮で、野沢菜、なす、切り干し大根、きのこ、かぼちゃ、小豆などを包み、焼くか蒸して仕上げる長野県の料理です。米の栽培が難しい山間部で、粉を利用する主食や間食として作られてきました。囲炉裏の灰へ入れて蒸し焼きにする灰焼きや、表面を焼いてから蒸す方法もあります。皮、具材、加熱方法は地域や家庭によって異なります。
野沢菜漬
野沢菜の葉と茎を洗い、塩や唐辛子、昆布などとともに漬け込む長野県の漬物です。野沢温泉村を発祥地の一つとし、霜が降りる晩秋に収穫した野沢菜を冬の保存食として利用してきました。漬け始めの浅漬けは緑色と歯ごたえを残し、乳酸発酵が進んだ古漬けは色が変わり、酸味が生じます。そのまま食べるほか、炒め物、油炒め、おやきの具などにも使われます。
信州そば
長野県内で栽培されたそばや地域の製粉・製麺文化を背景に、そば粉を水で練り、細く切ってゆでる手打ちそばの総称です。冷たいざるそばや温かいかけそばとして食べ、つゆ、薬味、麺の太さは地域によって異なります。戸隠、開田、伊那、富倉など各地に独自のそば文化があり、小麦粉、山芋、オヤマボクチなどをつなぎに使う場合があります。県全域のそば文化を示す地域料理名として登録します。
五平餅
炊いたうるち米を半づきにし、丸形、小判形、わらじ形などに整えて串へ付け、味噌や醤油を使ったたれを塗って焼く木曽・伊那地域の料理です。たれにはくるみ、ごま、えごま、山椒などを加えることがあります。山仕事の食事や、田植え、収穫、祭りなどの行事食として作られてきました。愛知県では三河、岐阜県では東濃・飛騨に伝わるのに対し、長野県の五平餅は木曽・伊那で丸形、小判形、わらじ形など多様な形にし、山椒を加えるたれもあります。
牛乳パン
厚く四角いパンを横に切り、牛乳やバター、砂糖などを使った白いクリームを挟む長野県の菓子パンです。昭和期から県内の製パン店や学校購買、スーパーマーケットなどで販売されてきました。パンの厚さ、クリームの量、甘味、パッケージは製造者によって異なります。牛乳を生地へ練り込む商品と、牛乳を使ったクリームを挟む商品があり、県内各地の製パン店が独自の商品を製造しています。
こねつけ
残ったご飯へ小麦粉を混ぜて練り、平たい円形などに整え、油を引いた鍋や鉄板で両面を焼く長野県の料理です。表面へ味噌や醤油、砂糖を合わせたたれを塗るか、生地の中へ味噌を入れて焼く方法があります。米だけでは量が足りない時に、小麦粉を加えてかさを増やす日常食として作られました。農作業の間食や子どものおやつとして食べられ、粉とご飯の割合、味付けは家庭によって異なります。
たけのこ汁
根曲がり竹と呼ばれるチシマザサの若芽を切り、サバの水煮缶などとともに煮て、味噌で調える北信地域の汁物です。根曲がり竹の収穫期である初夏に家庭で作られ、山菜と保存性のある魚の缶詰を組み合わせます。玉ねぎ、豆腐、じゃがいもなどを加える家庭もあります。根曲がり竹の下処理、サバ缶の量、味噌の種類は地域や家庭によって異なり、採取した竹をその日のうちに使うこともあります。
塩いかの酢の物
内臓を除いて塩漬けにしたイカを水へ浸して塩抜きし、細く切って、きゅうり、わかめ、キャベツなどと酢、砂糖、醤油などで和える長野県の料理です。海から離れた地域へ保存性を高めたイカが運ばれ、日常のおかずや行事食として利用されました。塩抜きの時間によって塩味を調整し、しょうが、ごま、からしなどを加える場合もあります。合わせる野菜や調味料は地域や家庭によって異なります。
半ごろし
もち米とうるち米を混ぜて炊き、米粒が半分ほど残る程度につき、丸めて小豆あん、きな粉、ごまなどを付ける長野県東信地域などの料理です。米を完全な餅になるまでつかず、粒を残した状態を「半ごろし」と呼ぶことが名称の由来とされています。春秋の彼岸、法事、農作業の節目などに作られてきました。米の配合、つき具合、あんやきな粉の甘さは地域や家庭によって異なります。
やしょうま
米粉へ湯を加えて練り、蒸した生地へ色を付け、複数の生地を組み合わせて花や幾何学模様を作り、棒状にして切る長野県北信・中信地域の行事菓子です。釈迦の命日に営まれる涅槃会に寺院や家庭で作られてきました。切り口へ模様が現れ、そのまま食べるほか、焼いたり砂糖醤油を付けたりします。名称の由来には複数の説があり、模様や色、生地の甘味は地域によって異なります。
いなごの佃煮
捕獲したイナゴを下処理し、醤油、砂糖、酒、みりんなどで水分が少なくなるまで甘辛く煮る長野県の料理です。稲作地帯で得られる昆虫を、海産物が少ない内陸部の食材として利用してきました。伊那谷をはじめ県内各地で作られ、ご飯のおかず、弁当、酒肴、保存食として食べられています。脚や羽を除く方法とそのまま煮る方法があり、味付けや煮詰める程度は家庭や製造者によって異なります。
信州新町のジンギスカン 長野市
羊肉を、醤油、にんにく、りんご、玉ねぎなどを使ったたれへ漬け込み、鉄板や専用鍋で野菜とともに焼く長野市信州新町の料理です。地域で羊の飼育が行われたことや、羊肉料理の普及活動を背景に定着しました。国道19号沿いには提供店や精肉店があり、味付けした羊肉が家庭用にも販売されています。使用する羊肉、漬けだれ、野菜の組み合わせは店舗や製造者によって異なります。
山賊焼き 松本市 塩尻市
鶏のもも肉やむね肉を一枚のまま、醤油、にんにく、しょうがなどを合わせたたれへ漬け、片栗粉などをまぶして揚げる松本市・塩尻市周辺の料理です。名称に「焼き」とありますが、現在は揚げて作る方法が一般的です。食べやすく切り、キャベツ、レモン、からしなどを添えて、ご飯のおかずや酒肴として食べます。肉の部位、漬けだれ、衣の厚さは店舗や家庭によって異なります。
美味だれ焼き鳥 上田市
鶏肉を串へ刺して焼き、すりおろしたにんにくを多く含む醤油だれを、食べる直前にかけるか付けて食べる上田市の焼き鳥です。「美味だれ」は「おいだれ」と読み、昭和期に市内の焼き鳥店で使われ始めたとされています。たれには醤油、にんにく、りんご、玉ねぎ、香辛料などが使われ、配合は店舗や家庭によって異なります。焼き鳥以外の肉料理や野菜へ使うこともあります。
天寄せ 岡谷市 諏訪市 茅野市 下諏訪町 富士見町 原村
寒天をだし汁で煮溶かし、卵、豆腐、そうめん、しいたけ、野菜、魚介などを入れて型へ流し、冷やし固める諏訪地域の料理です。具材を層状に並べ、祝い事には食紅などで色を付ける場合があります。寒冷で乾燥した気候を利用して角寒天の製造が発達した地域で、冠婚葬祭、祭り、法事などの行事食として作られてきました。味付け、具材、色、型の形は地域や家庭によって異なります。
市田柿 飯田市
渋柿の市田柿を収穫して皮をむき、つるして乾燥させ、表面へ白い粉を生じさせる飯田市・下伊那地域の干し柿です。乾燥の途中で柿をもみ、内部の水分と糖分を均一にして、やわらかな食感に仕上げます。表面の白い粉は柿の糖分が結晶化したものです。晩秋から冬に製造され、そのまま茶請けや正月の食品として食べるほか、菓子や料理の材料にも利用されています。
伊那ローメン 伊那市
蒸した太めの中華麺を、羊肉とキャベツなどと炒めるか、スープとともに煮て食べる伊那市の麺料理です。昭和30年代、地域の飲食店が羊肉と蒸し麺を使って考案した料理が広まりました。焼きそば風の汁なし形式と、汁のある形式があり、酢、ソース、七味唐辛子などを好みで加えます。麺、肉、味付けは店舗によって異なります。
駒ヶ根ソースかつ丼 駒ヶ根市
丼へご飯を盛り、千切りキャベツを敷き、揚げた豚カツを甘辛いソースへくぐらせて載せる駒ヶ根市の料理です。卵ではとじず、カツ、ソース、キャベツ、ご飯を重ねる構成が特徴です。地域団体が豚肉の種類やカツの重量、盛り付けなどの基準を定め、参加店がそれぞれのソースで提供しています。
富倉そば 飯山市
そば粉へオヤマボクチの葉から取り出した繊維をつなぎとして加え、手打ちする飯山市富倉地域のそばです。オヤマボクチの繊維を乾燥させ、細かくほぐしてそば粉へ練り込むことで、切れにくく弾力のある麺に仕上げます。小麦の栽培が難しい山間部で、地域の植物を利用する方法として伝えられました。冷たいざるそばや温かいそばとして食べ、麺の太さやつゆは店舗や家庭によって異なります。
笹ずし 飯山市
クマザサの葉へ酢飯を載せ、山菜、しいたけ、錦糸卵、紅しょうが、くるみなどを盛る飯山市周辺の寿司です。笹の葉を皿や包みとして使い、祭り、祝い事、来客時などに作られてきました。酢飯へ具材を混ぜる方法や、葉の上へ彩りよく並べる方法があります。上杉謙信に村人が食事を献上したという伝承もありますが、由来には諸説あります。具材や盛り付けは集落や家庭によって異なります。
凍み豆腐の煮物 茅野市
冬の寒さを利用して凍結と乾燥を繰り返した凍み豆腐を水で戻し、白菜、きのこ、にんじんなどとともに、だし、醤油、みりんなどで煮る茅野市周辺の料理です。スポンジ状になった豆腐が煮汁を含み、溶き卵でとじる場合もあります。八ヶ岳山麓では冬の低温と乾燥を利用して凍み豆腐が作られ、保存食として利用されました。具材や味付けは家庭によって異なります。
鯉こく 佐久市
筒切りにしたコイを、水、味噌、酒、砂糖などで長時間煮る佐久市周辺の料理です。コイの身、皮、骨から出るだしを生かし、味噌を加えて濃い汁物に仕上げます。佐久地域では用水や池でコイを養殖し、海魚が得にくい内陸部のたんぱく源として利用してきました。正月、祭り、祝い事、来客時などの料理として食べられ、しょうがやねぎを加える家庭もあります。味噌の種類や煮る時間は作り手によって異なります。