都道府県から日本を散歩する
京都府
きょうとふ
京都府は近畿地方に位置し、府庁所在地は京都市です。南には山城盆地、中央には丹波高地、北には丹後半島と若狭湾があり、桂川、宇治川、木津川、由良川がそれぞれ異なる方向へ流れます。古都の碁盤目の街路だけでなく、山間の谷、茶畑の斜面、北部の入り江と砂州が一つの府内にあります。川沿いの旧道、峠、港町の路地を歩くと、南北に長い地域が山を越える道で結ばれてきたことがわかります。
794年に平安京が置かれて以後、京都は長く政治、宗教、文化の中心となりました。宮城跡、寺社、御所、町家、庭園は、それぞれ異なる時代の都市計画と暮らしを伝えます。大通りから細い路地へ入り、社寺の門前、鴨川の河原、東山の坂を歩くと、都が川、山、風の向きに合わせて形づくられたことが見えてきます。一方、南山城には古代寺院と街道、丹波には山城と宿場、丹後には古墳、港、海上交通の歴史があります。
中世には朝廷、武家、寺社が並び立ち、応仁の乱などで市街地は大きな被害を受けました。その後、町衆による自治と商工業が発達し、祇園祭の山鉾、織物、漆、金工、陶磁器、菓子などの文化が町の中で受け継がれました。近世には京都所司代が置かれ、西陣、伏見、宇治などが織物、酒、茶、舟運の拠点となりました。高瀬川や疏水、酒蔵の道、茶問屋の町並みを歩くと、水路が物流と産業を支えたことがわかります。
北部では北前船の寄港、漁業、縮緬、農林業が暮らしを形づくりました。天橋立の砂州、伊根湾の舟屋、丹後ちりめんの機場、由良川沿いの城下を歩くと、京都府が海の文化も持つことに気づきます。宇治茶、京野菜、鯖寿司、丹後の魚、黒豆、筍などの食は、盆地、山間、海辺の産物と街道の流通が重なってできています。器、染織、竹工、木工の工房を訪ねると、技術が観賞物ではなく日常の仕事として続いてきたことが見えてきます。
京都府を歩くなら、著名な社寺だけを急いで巡るのではなく、古い水路をたどり、町家の裏路地へ入り、山越えの宿場や北部の港へ足を延ばすとよいでしょう。南の盆地と北の海では、屋根、食、祭り、風の匂いが変わります。石畳の擦れ、疏水の流れ、織機の音、舟屋の水際に目を留めると、都の文化と地域の暮らしが別々ではなく、道と川と海によって結ばれてきたことが静かに見えてきます。
由良川沿いでは洪水と橋の歴史が、丹後の海辺では風と潮に備えた家並みが見られます。南部の都市景観から北部の集落へ移るほど、同じ府内で水の流れる向きと暮らしの暦が変わることを、歩きながら確かめられます。
郷土料理・ご当地グルメ
この地域で親しまれている味を21件紹介します。白味噌の雑煮
昆布などで取っただしへ西京白味噌を溶き、丸餅、里芋、大根、金時にんじんなどを入れる京都府の正月料理です。白味噌は米麹を多く使うため甘みがあり、具材は家族円満を願って丸く切ることがあります。餅は焼かずに煮る家庭もあり、かつお節を添える食べ方も見られます。宮中や寺社の祝いの食文化と結び付きながら家庭へ広がり、元日の朝を中心に作られてきました。だし、味噌の濃さ、具材は地域や家庭によって異なります。
えびいもと棒だらの炊いたん
えびいもと棒だらを、だし、砂糖、醤油、みりんなどで時間をかけて煮含める京都府の料理です。えびいもは形を崩さないよう下ゆでし、乾燥させた棒だらは水へ浸して戻してから骨を除きます。海から離れた京都で保存性の高い棒だらが利用され、粘りのあるえびいもと組み合わせる料理が定着しました。異なる食材を合わせて互いの味を引き立てる「であいもん」の一例で、正月や祝い事、おばんざいとして作られています。
にしん茄子
水で戻した身欠きにしんと、なすを、だし、砂糖、醤油、みりんなどで煮含める京都府のおばんざいです。にしんを米のとぎ汁などで戻して下ゆでし、旬のなすと一緒に炊くことで、魚の脂とうま味を野菜へ移します。海から離れた京都では、保存性のある乾物や塩蔵魚が貴重なたんぱく源として利用されました。身欠きにしんと夏野菜を組み合わせる「であいもん」の一例で、夏の家庭料理として受け継がれています。
肉豆腐
牛肉、豆腐、九条ねぎなどを、だし、醤油、砂糖、酒などで甘辛く煮る京都府の家庭料理です。牛肉を炒めてから豆腐とねぎを加える方法や、煮汁へ具材を順に入れる方法があり、しらたきやきのこを加える家庭もあります。豆腐とねぎへ牛肉のうま味を含ませ、汁ごと食べる日常のおかずとして作られてきました。京都で栽培される九条ねぎや、地域の豆腐を利用する例があり、ご飯のおかずや酒肴として食べられています。
千枚漬け
聖護院かぶをかんなで薄く切り、塩で下漬けした後、昆布、唐辛子、酢、砂糖などを合わせた調味液で漬ける京都府の漬物です。薄いかぶを千枚ほど切るように見えることが名称の由来とされています。江戸末期、京都御所の料理に関わった人物が考案したという伝承があります。現在の一般的な製法では乳酸発酵させず、昆布のうま味と酢の酸味を生かして仕上げます。聖護院かぶが収穫される冬を中心に作られ、土産品としても販売されています。
さばずし
塩で締めたサバを酢で調え、酢飯へ重ねて昆布で包み、布や巻きすで棒状に整える京都府の寿司です。若狭湾で水揚げされたサバが塩をされ、鯖街道を通って京都へ運ばれたことを背景に、海から離れた地域の行事食として定着しました。祭りや祝い事では家庭で一本ずつ作り、切り分けて食べました。岡山県のさばずしが県北部の山間地域で塩サバを使う行事食として伝わるのに対し、京都府では鯖街道で運ばれたサバと都の食文化が結び付き、昆布で包む棒ずしとして発達しました。
水無月
白いういろうの上へ甘く煮た小豆をのせて蒸し、三角形に切る京都府の和菓子です。京都では6月30日の夏越の祓に食べ、残る半年の無病息災を願います。三角形は、かつて氷室から宮中へ献上された氷のかけらを表し、小豆の赤色には災いを避ける意味があると伝えられています。小麦粉、砂糖、水を混ぜた生地を蒸し、途中で小豆をのせて再び蒸します。和菓子店や家庭で6月を中心に作られています。
おはぎ
炊いたもち米とうるち米を半づきにして丸め、小豆あん、きな粉、青のりなどで包む京都府の行事食です。春の彼岸には牡丹にちなみ「ぼたもち」、秋の彼岸には萩にちなみ「おはぎ」と呼び分ける例があります。小豆の赤色には邪気を払う力があると考えられ、彼岸、法要、節句、農作業の節目などに作られてきました。家庭によって米の割合、形、あんの甘さが異なり、仏壇や墓へ供えた後に家族で食べます。
ふろふき大根
大根を厚い輪切りにして米のとぎ汁などで下ゆでし、昆布だしでやわらかく煮て、練り味噌をのせる京都府の料理です。味噌は白味噌や赤味噌へ砂糖、みりん、柚子などを加えて作ります。京都では聖護院大根、青味大根など地域の大根を使う例があり、冬の家庭料理や精進料理として食べられてきました。名称の由来には、漆器職人が漆風呂を温めるために大根をゆでたという説などがあります。大根の甘みと味噌の風味を味わう料理です。
鯛蕪 京都市
鯛の切り身やあらと聖護院かぶを、昆布だし、酒、薄口醤油などで煮る京都市の料理です。聖護院かぶは大きく切って下ゆでし、煮崩れを防ぎながら鯛のうま味を含ませます。鯛の脂とだしが淡白なかぶへ染み込み、異なる食材が互いを引き立てる京都の「であいもん」の一例とされています。聖護院かぶが出回る冬を中心に、家庭や日本料理店で作られてきました。鯛のあらを使う場合は、霜降りして臭みを除いてから煮ます。
賀茂なすの田楽 京都市
賀茂なすを厚い輪切りまたは横半分に切り、油で揚げるか焼いて、白味噌や赤味噌を使った田楽味噌を塗る京都市の料理です。賀茂なすは丸い形と緻密な果肉を持ち、加熱しても形が崩れにくい京の伝統野菜です。表面へ切り目を入れて火を通し、味噌、砂糖、みりんなどを練ったたれをのせ、木の芽やごまを添えることもあります。収穫期である夏の家庭料理や日本料理店の献立として作られています。
万願寺とうがらしとじゃこの炊いたん 福知山市 舞鶴市 綾部市
万願寺とうがらしとちりめんじゃこを、だし、醤油、砂糖、みりんなどで炒め煮にする中丹地域の料理です。万願寺とうがらしは大ぶりで果肉が厚く、辛味が少ない甘とうがらしとして舞鶴市周辺で栽培されてきました。種を除いて食べやすく切り、じゃこの塩味とうま味を生かして汁気が少なくなるまで炊きます。舞鶴市、綾部市、福知山市を中心に、収穫期である夏の家庭料理や作り置きのおかずとして食べられています。
丹後ばらずし 宮津市 京丹後市 伊根町 与謝野町
焼きサバの身を細かくほぐし、砂糖や醤油で甘辛く炒り煮にしたおぼろを、酢飯、かんぴょう、しいたけ、錦糸卵、かまぼこ、紅しょうがなどと重ねる丹後地域の寿司です。木製の浅い箱「まつぶた」へ酢飯と具材を敷き詰め、押してから四角く切り分けます。サバを保存して利用する沿岸地域の知恵から生まれ、祭り、祝い事、来客時など、多人数が集まる日の料理として宮津市、京丹後市、伊根町、与謝野町で受け継がれています。
カレー焼き 宮津市
小麦粉などで作る生地へカレー味の具を入れ、細長い専用の焼き型で焼く宮津市の軽食です。回転焼きに似た製法ですが、棒状の形をしており、片手で持って食べられます。かつて市内の店で販売され、地元の子どもや学生の間で親しまれた後、販売の中断を経て地域の商業施設などで復活しました。中身には挽肉や玉ねぎを使ったカレーを入れる例があり、宮津で記憶されてきた味を再現する現代のご当地グルメです。
たけのこの木の芽和え 向日市 長岡京市
ゆでた京たけのこを食べやすく切り、木の芽、白味噌、砂糖、酢などをすり合わせた衣で和える向日市・長岡京市周辺の料理です。乙訓地域では、土入れを繰り返す栽培法によって白くやわらかな京たけのこが育てられてきました。掘りたてを下ゆでし、山椒の若芽をすり鉢ですって香りを引き出します。たけのこの収穫期である春に、家庭料理、祝い事、来客時の一品として作られ、季節を味わう料理として受け継がれています。
松花堂弁当 八幡市
十字に仕切られた四つ切りの箱へ、刺身、焼き物、煮物、ご飯などを分けて盛る八幡市ゆかりの弁当です。江戸時代の文化人・松花堂昭乗が使った仕切り箱に着想を得て、昭和初期に料亭吉兆の創業者が料理の器として用いたことから「松花堂弁当」と呼ばれるようになりました。仕切りによって料理の味や汁が混ざりにくく、複数の料理を一つの箱へ整えて盛り付けられます。会食、仕出し、行事の食事として全国へ広がりました。
黒豆煮 南丹市 京丹波町
丹波黒大豆を水へ浸して戻し、砂糖、醤油、塩などを加え、皮を破らないよう弱火で煮含める南丹市・京丹波町周辺の料理です。丹波黒大豆は粒が大きく、煮ても形が崩れにくい豆として丹波地域で栽培されてきました。さびた鉄釘や鉄材を加えて黒い色を保つ作り方もあり、煮汁の中でゆっくり冷まして味を含ませます。正月のおせち料理や祝い事に用いられ、まめに働き健康に暮らす願いを込める縁起物とされています。
茶汁 宇治田原町
味噌を丸めたみそ玉、焼いたなすや身欠きにしん、三つ葉やせりなどを椀へ入れ、熱い番茶を注いで食べる宇治田原町湯屋谷地域の料理です。茶農家が農作業へみそ玉と具材を持参し、畑で湯を沸かして短時間で昼食を取ったことが背景にあります。具材は季節や家庭によって異なり、ご飯へかける食べ方もあります。茶の産地で身近な番茶を汁として使う生活の知恵を伝え、地域行事や交流施設で継承されています。
しい玉焼き 南山城村
小麦粉をだしで溶いた生地へ、甘辛く煮た原木しいたけの佃煮を入れ、たこ焼き器で丸く焼く南山城村の料理です。タコの代わりに村内で生産された原木しいたけを使い、特産物を手軽に食べられる商品として農林産物直売所などで提供されました。しいたけの歯ごたえと佃煮の味を生かし、ソースや削り節などを添えることもあります。伝統料理ではなく、地域産品を活用して作られた現代のご当地グルメとして扱います。
すぐき漬け 北区
すぐき菜のかぶと葉を塩だけで漬け、乳酸発酵させる京都市北区上賀茂地域の漬物です。収穫したすぐき菜を塩で荒漬けした後、丸太をてこのように使う「天秤押し」で強く圧力をかけ、本漬けします。その後、室と呼ばれる暖かい場所で発酵させ、特有の酸味を生じさせます。上賀茂神社周辺の社家や農家で栽培と製造が受け継がれ、冬から春にかけて食べられてきました。刻んでご飯へ添えるほか、茶漬けにも用いられます。
しば漬け 左京区
なす、きゅうり、みょうがなどの夏野菜を赤紫蘇と塩で漬け、乳酸発酵させる京都市左京区大原地域の漬物です。赤紫蘇の色が野菜へ移り、発酵による酸味と香りが生じます。名称は、紫蘇を意味する古語の「紫葉」に由来する説や、大原に隠棲した建礼門院が名付けたという伝承があります。もとは塩と赤紫蘇だけで漬ける保存食で、現在は調味液を使う商品もあります。ご飯、茶漬け、酒肴などに添えて食べられています。