都道府県から日本を散歩する
神奈川県
かながわけん
神奈川県は関東地方の南西部に位置し、県庁所在地は横浜市です。東は東京湾、南は相模湾に面し、西には箱根と丹沢の山地、中央には相模川の流域、南東には三浦半島が伸びています。山地、台地、丘陵、平野、二つの湾が近い距離で接するため、海辺の坂道から尾根道へ、河岸段丘から田畑へと景色が大きく変わります。相模川、酒匂川、多摩川などの流れを基準に歩くと、山から海へ人や物が運ばれてきた道筋が見えてきます。海岸段丘の上にある集落、谷戸の細道、旧東海道の曲がり、港へ下る坂には、地形に合わせて暮らしがつくられてきた痕跡があります。
古代の県域は主に相模国と武蔵国の一部に分かれ、東海道が都と東国を結びました。郡衙、寺院、古墳、駅路の跡は、川や台地と交通の関係を伝えています。中世には鎌倉に武家政権が置かれ、谷戸、切通、寺社、海岸を結ぶ道が政治と信仰の空間を形づくりました。鶴岡八幡宮、建長寺、円覚寺、鎌倉大仏などの史跡を訪れるときは、建物だけでなく、山を切り開いた道、谷の奥行き、海へ抜ける方角を見ると、狭い地形の中に都市が組み立てられたことがわかります。室町から戦国期には小田原北条氏が城と支城、街道、港を結び、関東支配の拠点を築きました。
近世には東海道が整備され、宿場、関所、茶屋、渡し場が旅人と物資の移動を支えました。箱根の山道や石畳、関所跡、松並木を歩くと、険しい地形を越えるために道がどのように選ばれたかが見えてきます。江戸湾と相模湾では漁業と海運が行われ、浦賀水道は船の出入りを見張る場所でもありました。1853年にペリー艦隊が来航し、1859年に横浜港が開港すると、外国人居留地、波止場、倉庫、銀行、教会、鉄道がつくられました。日本大通、山下町、港周辺を歩くと、街路の幅や煉瓦、石造建築に開港後の都市計画が残っています。
近代には軍港、造船、製鉄、機械、化学などの工業が沿岸部に集まり、鉄道と道路が県内を結びました。1923年の関東大震災では各地が大きな被害を受け、火災、崩落、津波による痕跡が残りました。復興後の県庁舎、橋、護岸、慰霊碑、旧銀行建築を歩くと、災害を経て都市が再構成されたことを感じられます。一方、丹沢や箱根の山地には林業、炭焼き、茶、温泉、登山道の歴史があり、相模湾沿岸には漁港、網小屋、魚市場、海辺の信仰が残ります。都市と自然を分けて見るのではなく、山の水が川を通って湾へ届く流れとして考えると県内のつながりが見えます。
食と工芸にも海と山の違いが表れます。相模湾のしらすや干物、三崎のまぐろ、小田原のかまぼこ、足柄茶、三浦の野菜、箱根寄木細工、鎌倉彫などは、漁場、畑、森林、街道、港の仕事と結びついています。品物だけを買うのではなく、漁港の朝、茶畑の斜面、木工の町、旧街道の商店を歩くと、名産が生まれた土地の条件が伝わります。
神奈川県を歩くなら、港町だけ、古都だけ、温泉地だけで一つの印象を決めないことです。谷戸の寺から切通へ、開港場の岸壁から震災復興建築へ、旧東海道から山の関所へ、川沿いから相模湾へと道をつなぐと、武家の時代、街道の時代、開港と工業の時代が同じ県内で重なっていることがわかります。坂を上った先で海が見えたり、港の背後に山の稜線が現れたりする瞬間に、土地の近さと深さが身体に残ります。
郷土料理・ご当地グルメ
この地域で親しまれている味を23件紹介します。牛鍋 横浜市
牛肉、ねぎ、豆腐、しらたきなどを鉄鍋へ入れ、味噌または醤油、砂糖、酒などを使った甘辛い味付けで煮る横浜市の料理です。幕末の横浜港開港後、外国人を通じて広まった牛肉を日本人向けに調理した料理として発展し、明治期の文明開化を象徴する食文化となりました。現在のすき焼きに近い料理ですが、横浜における牛肉食の歴史を伝える料理として登録します。
サンマーメン 横浜市
醤油味などのスープに中華麺を入れ、もやし、白菜、にんじん、きくらげ、豚肉などを炒めて、とろみを付けたあんを載せる横浜市発祥の麺料理です。戦後、横浜の中華料理店で、手頃な野菜を使った温かい料理として提供され、県内へ広まりました。名称にサンマとありますが魚のサンマは使いません。野菜の種類、あんの濃度、スープの味は店舗によって異なります。
シューマイ 横浜市
豚肉、玉ねぎ、でんぷん、調味料などを混ぜたあんを、小麦粉の薄い皮で包んで蒸す横浜市の名物料理です。横浜中華街の点心文化や、駅弁・土産品として販売された商品を通じて地域へ定着しました。現在は飲食店、専門店、家庭用商品などで広く提供されています。豚肉の割合、玉ねぎ、魚介の使用、皮の厚さ、大きさ、味付けは店舗や製造者によって異なります。
横浜家系ラーメン 横浜市
豚骨と鶏がらを煮出し、醤油だれを合わせたスープに、太めの中華麺を入れ、チャーシュー、ほうれん草、海苔などを載せる横浜市発祥のラーメンです。昭和49年に横浜市新杉田で開業した店舗の料理を起点に、店名や系譜から「家系」と呼ばれるようになりました。麺の硬さ、味の濃さ、油の量を選べる店もあります。スープ、麺、具材は店舗によって異なります。
のらぼう菜のおひたし 川崎市
のらぼう菜の茎と葉を塩を加えた湯でゆで、冷水に取って水気を切り、醤油、だし、かつお節などで味付けする川崎市多摩区周辺の料理です。のらぼう菜は地域で栽培されてきたアブラナ科の野菜で、春に伸びる花茎を食用にします。苦味が比較的少なく、茎の甘味と食感を生かすため、短時間で加熱します。ゆで時間や味付けは家庭によって異なります。
かて飯 相模原市
炊いたご飯へ、大根、にんじん、ごぼう、里芋、しいたけ、油揚げなどを甘辛く煮た具を混ぜる相模原市周辺の料理です。米が貴重だった時代に、野菜などを加えてご飯の量を補う生活の工夫から作られました。日常食のほか、彼岸、祭り、祝い事などに具だくさんの料理として用いられました。群馬県では麦や雑穀、豆を米とともに炊く形も見られるのに対し、神奈川県のかて飯は相模原市周辺で煮た根菜類を炊いた飯へ混ぜる形を中心とします。
酒まんじゅう 相模原市 座間市
米と麹などから作る酒種へ小麦粉を加えて発酵させた生地で、小豆あんを包み、蒸して作る相模原市・座間市周辺の郷土菓子です。稲作に適さない土地で小麦を利用する粉食文化が発達し、農作業の間食や祭り、祝い事に作られてきました。酒種による香りと、発酵して膨らんだ生地が特徴です。酒種の作り方、発酵時間、あん、生地の大きさは地域や家庭によって異なります。
石垣団子 相模原市
小麦粉を水で練った生地へ、角切りにしたさつまいもを混ぜ、一つずつ丸めるかまとめて蒸す相模原市周辺の郷土菓子です。生地の表面から見えるさつまいもの角が石垣に似ることから名付けられたとされています。小麦とさつまいもを使う農家のおやつや間食として作られてきました。砂糖を加える場合と加えない場合があり、芋の大きさや生地の硬さは家庭によって異なります。
へらへら団子 横須賀市
小麦粉と白玉粉などを水で練り、薄く平たい形にしてゆで、小豆あんを絡める横須賀市佐島地区の郷土菓子です。団子を押しつぶした形がへらのように見えることから名付けられたとされています。夏の船祭りなどで供え、その後に地域で食べる行事食として受け継がれてきました。粉の配合、団子の厚さ、小豆あんの甘さは地域や家庭によって異なります。
けんちん汁 鎌倉市
大根、にんじん、ごぼう、里芋、こんにゃく、豆腐などをごま油で炒め、だしを加えて煮る鎌倉市ゆかりの汁物です。肉や魚を使わない精進料理として作られ、鎌倉の建長寺で供された「建長汁」が名称の由来とする説があります。豆腐は手で崩して加えることが多く、野菜を無駄なく使う料理として広まりました。具材、だし、醤油や塩の味付けは地域や家庭によって異なります。
生しらす丼 鎌倉市 藤沢市 茅ヶ崎市
相模湾で水揚げされた生しらすをご飯または酢飯へ盛り、ねぎ、海苔、しょうが、わさびなどを添え、醤油やたれをかけて食べる湘南地域の丼料理です。しらすは鮮度が落ちやすいため、水揚げ当日に提供されることが多く、禁漁期や天候によって提供できない場合があります。静岡県の生しらす丼が浜名湖周辺から駿河湾沿岸まで複数の漁港で提供されるのに対し、神奈川県では相模湾のしらすを使い、湘南地域の漁港や飲食店で食べられます。
小田原おでん 小田原市
小田原産のかまぼこ、ちくわ、さつま揚げなどの練り製品を、大根、卵、こんにゃくなどとだしで煮る小田原市のおでんです。地域の練り物文化を生かす町おこしの料理として飲食店や行事へ広まり、梅味噌を添える食べ方も知られています。使用する練り物、だし、具材、梅味噌の配合は店舗や家庭によって異なります。
小田原かまぼこ 小田原市
グチなどの白身魚をすり身にし、水へさらして血や脂を除き、塩などを加えて練り、板へ盛って蒸し上げる小田原市の魚肉練り製品です。相模湾の魚、水、東海道の宿場町としての流通条件を背景に、江戸時代後期から生産が発展しました。きめ細かな表面と弾力のある食感を持つよう加工され、正月料理や日常の食事に使われます。魚の種類や配合は製造者によって異なります。
マグロのかぶと焼き 三浦市
マグロの頭を半分または丸ごと使い、塩やたれで味を付け、オーブンや専用の焼き台で時間をかけて焼く三浦市三崎港周辺の料理です。目の周囲、ほほ、頭頂部など、頭に残る複数の部位を取り分けて食べます。遠洋マグロ漁業の基地として発展した三崎で、大型の頭部を活用する料理として飲食店へ広まりました。味付け、加熱時間、提供する大きさは店舗によって異なります。
割り干し大根のはりはり漬け 三浦市
大根を縦に太く切って冬の風で乾燥させた割り干し大根を水で戻し、醤油、酢、砂糖、みりん、昆布、唐辛子などを合わせた調味液へ漬ける三浦市の料理です。三浦半島で生産される大根を保存する方法として作られ、乾燥による強い歯ごたえが特徴です。ご飯のおかずや箸休めとして食べられます。大根の太さ、干す期間、調味液の配合は家庭や製造者によって異なります。
三崎まぐろラーメン 三浦市
マグロの骨、頭、身などから取っただしを使うスープへ中華麺を入れ、マグロの身、ねぎ、野菜などを載せる三浦市三崎周辺のご当地ラーメンです。マグロの水揚げと加工が盛んな地域の食材を活用する料理として、飲食店や地域団体によって展開されました。塩味、醤油味、とろみを付けたあんなど複数の形式があり、統一された一つのレシピではありません。
茹で落花生 秦野市 大磯町 二宮町
収穫後の生の殻付き落花生を水洗いし、塩を加えた湯で殻ごとやわらかくなるまでゆでる神奈川県の料理です。秦野市を中心に落花生栽培が発達し、農家が乾燥前の豆や出荷しにくい豆を日常のおやつとして食べてきました。現在は冷凍品なども製造され、二宮町や大磯町を含む産地で親しまれています。塩の量、ゆで時間、使用する品種は家庭や製造者によって異なります。
とん漬け 厚木市 綾瀬市
豚肉を味噌、砂糖、みりん、酒などを合わせた味噌床へ漬け込み、焼いて食べる厚木市・綾瀬市周辺の料理です。養豚が盛んだった県央地域で、豚肉の保存性を高めながら味を付ける方法として作られました。現在はロース、もも、ばらなど複数の部位が使われ、土産品や家庭料理として販売されています。味噌の種類、漬け時間、肉の厚さ、焼き方は製造者によって異なります。
厚木シロコロ・ホルモン 厚木市
豚の大腸を脂を残した筒状のまま切り、網や鉄板で焼き、味噌だれなどを付けて食べる厚木市のホルモン料理です。焼くと外側が締まり、内側の脂が残って丸い形になることから「シロコロ」と呼ばれます。豚肉加工とホルモン店が多い地域の食文化を背景に、地域振興の料理として広まりました。部位の処理、味噌だれ、焼き加減は店舗によって異なります。
大山豆腐の湯豆腐 伊勢原市
大山周辺で作られる豆腐を昆布だしなどで温め、醤油、薬味、たれを添えて食べる伊勢原市の料理です。大山では江戸時代から参詣者を受け入れる宿坊が発達し、寄進された大豆と地域の水を使った豆腐が精進料理として提供されました。現在も宿坊や飲食店で湯豆腐をはじめとする豆腐料理が提供されています。豆腐の硬さ、だし、薬味、たれは店舗によって異なります。
ワカサギの甘露煮 箱根町
箱根町の芦ノ湖で捕れたワカサギを素焼きまたは乾燥させ、醤油、砂糖、みりん、水あめなどを合わせた煮汁で、形を崩さないよう煮詰める料理です。芦ノ湖では大正期からワカサギの増殖事業が行われ、地域の水産物として利用されてきました。保存しやすい甘露煮は土産品や正月料理にも用いられています。煮汁の甘さ、素焼きの有無、煮る時間は製造者によって異なります。
大涌谷の黒たまご 箱根町
鶏卵を箱根町大涌谷の温泉池でゆで、さらに蒸気で加熱して作る殻の黒いゆで卵です。温泉池に含まれる鉄分が卵の殻へ付着し、硫黄成分と反応して黒色になるとされています。殻は黒くなりますが、内部は一般的なゆで卵と同様です。大涌谷の火山景観と温泉資源を生かした名物として販売されています。加熱時間や製造工程は提供事業者によって管理されています。