都道府県から日本を散歩する
埼玉県
さいたまけん
埼玉県は関東平野の内部に位置する内陸県で、県庁所在地はさいたま市です。西には秩父山地があり、東へ向かうにつれて丘陵、武蔵野台地、低地が広がります。荒川と利根川が県の大きな水の流れをつくり、入間川、元荒川、古利根川など多くの支流や旧河道が平野を縫っています。山地から流れ出た水は扇状地や田畑を潤す一方、洪水を繰り返してきました。堤防、用水路、河畔林、微高地の集落を歩くと、平らに見える土地にも水を避けるための細かな起伏があることがわかります。
古代の武蔵国には多くの集落と古墳が築かれました。埼玉古墳群には大型の前方後円墳や円墳が集まり、稲荷山古墳から出土した鉄剣には文字が刻まれていました。墳丘の周囲を歩き、田畑の向こうに別の古墳を望むと、古墳が単独の記念物ではなく、地域の首長層と交通路を示す広い景観の中に置かれていたことがわかります。古代には東山道武蔵路が整えられ、国府へ向かう道が台地を南北に通りました。中世には武蔵武士が各地に館を構え、寺社や城館、鎌倉街道がつくられました。林の中に残る土塁や堀、段丘の縁を通る細道は、現在の住宅地や畑の間にも過去の道筋を残しています。
近世には中山道、日光街道、秩父往還などが整えられ、宿場町、河岸、門前町が発達しました。荒川や利根川の舟運は米、麦、木材、繭、肥料などを運び、川沿いには蔵や船着場が置かれました。街道沿いの古い商家、短冊状の敷地、寺社へ折れる道、宿場の端に残る一里塚を見ると、歩く速度に合わせて町がつくられていたことを感じられます。蔵造りの町並みや鋳物の工場跡、製糸や織物に関わる建物は、江戸と周辺農村を結んだ商工業の歴史を伝えています。秩父の山間部では養蚕、林業、石灰、鉱山などが暮らしを支え、札所をめぐる巡礼路が集落と谷をつなぎました。
農業では米、麦、野菜、果樹、茶、花などが地域ごとの土と水に合わせて育てられています。狭山茶、深谷ねぎ、草加せんべい、川越いもなどの名は知られていますが、品物だけを見るより、畑の畝、乾燥場、用水、街道沿いの商店を歩くと、加工と流通の背景が見えてきます。うどんやすいとんなどの小麦料理は、米作りだけではない平野の食文化を伝えています。祭りや民俗芸能も、山間の集落、宿場、商人町など異なる場所で受け継がれています。
埼玉県を歩くとき、都市近郊という一言で景色をまとめないことが大切です。駅から少し離れて旧街道へ入り、用水に沿って田畑を抜け、古墳や河岸跡を訪ねると、現在の住宅地の下に古い道と水の記憶が残っていることに気づきます。西の山道から東の低地まで、歩く場所を変えるたびに空の広さと水の近さが変わり、県の輪郭が少しずつ立ち上がります。
郷土料理・ご当地グルメ
この地域で親しまれている味を21件紹介します。かてめし
炊いたご飯へ、にんじん、ごぼう、しいたけ、油揚げ、芋がら、山菜などを甘辛く煮た具を混ぜる埼玉県の料理です。「かて」は米の量を補うために加える食材を意味し、米が貴重だった時代の生活の工夫として作られました。秩父地域をはじめ県内各地で、祭りや祝い事にも用いられています。
武蔵野うどん
小麦粉を使って太く硬めに打った麺をゆで、豚肉、長ねぎ、油揚げなどを煮た温かい醤油味のつけ汁で食べる埼玉県西部を中心とする料理です。武蔵野台地では小麦栽培が行われ、農家の日常食や冠婚葬祭などの行事食としてうどんが作られてきました。褐色を帯びた麺や強い弾力が特徴とされますが、麺の太さ、つけ汁、具材は地域や店舗によって異なります。
呉汁
水に浸した大豆をすりつぶした「呉」を、大根、にんじん、里芋、ねぎ、油揚げなどを煮た汁へ加え、味噌で調える埼玉県の料理です。大豆をすりつぶして使うことで、汁に濃度と大豆の風味が加わります。農村地域を中心に秋から冬の日常食として作られてきました。具材や大豆のつぶし方は家庭によって異なります。群馬県の呉汁が大泉町周辺に伝わるのに対し、埼玉県では農村部を中心に、すりつぶした大豆を根菜の味噌汁へ加える冬の日常食として広く作られてきました。
みそポテト
一口大に切ったじゃがいもをゆで、小麦粉の衣を付けて油で揚げ、味噌、砂糖、みりんなどを合わせた甘辛いたれをかける秩父地域の料理です。農作業の合間に食べる軽食を意味する「小昼飯」の一つとして、家庭で作られてきました。現在は惣菜店、飲食店、祭りなどでも提供されています。じゃがいもの大きさ、衣の厚さ、味噌だれの甘さは家庭や店舗によって異なります。
豆腐ラーメン さいたま市
醤油味のスープに中華麺を入れ、豆腐と豚ひき肉を醤油などで煮て、とろみを付けたあんを載せるさいたま市岩槻区のラーメンです。麻婆豆腐とは異なり、唐辛子の辛味を強くせず、比較的あっさりとした味に仕上げます。昭和期に地域の飲食店で、まかない料理から商品化されたとされています。豆腐の大きさ、あんの濃度、ひき肉やスープの味付けは店舗によって異なります。
浦和のうなぎ さいたま市
開いたウナギを串へ刺し、蒸してからたれを付けて焼く蒲焼を中心とする、さいたま市浦和区周辺の食文化です。江戸時代、沼や川が多かった浦和周辺で捕れたウナギを、中山道を訪れる人へ提供したことから名物になったとされています。地域での漁獲が減った後も、蒲焼を提供する店と調理技術が受け継がれています。静岡県の料理とは別に、浦和の飲食文化として登録します。
熊谷うどん 熊谷市
熊谷市産を中心とする小麦を使って製麺し、温かいつゆや冷たいつけ汁で食べる熊谷市のご当地うどんです。熊谷では明治期に権田愛三らが麦の栽培改良に取り組み、小麦の産地として発展しました。地域産小麦の使用や、市内での製粉・製麺を重視する取り組みとして展開されています。麺の太さ、硬さ、つけ汁、具材は統一されておらず、提供店ごとに異なります。
鳩ヶ谷ソース焼きうどん 川口市
うどんを肉や野菜などと炒め、香辛料を使った専用のソースで味付けする川口市旧鳩ヶ谷地域のご当地料理です。地域にあったソース工場や地元団体が協力し、地名を残す料理として平成期に考案されました。埼玉県産うどんや地域の食材を使用する取り組みも行われています。使用する肉や野菜、麺、盛り付けは店舗によって異なりますが、専用ソースで炒める点が共通します。
行田ゼリーフライ 行田市
おからとじゃがいもを基本に、にんじん、ねぎなどを混ぜて小判形に整え、衣を付けずに油で揚げ、ソースへくぐらせる行田市の料理です。名称は銭の形に似た「銭フライ」が変化したものとされています。明治時代ごろから地域で食べられてきたとされ、おやつや軽食として親しまれています。材料の配合、形、ソースは店舗によって異なります。
ゼリーフライ 行田市
じゃがいもとおからを主材料とし、ねぎ、にんじんなどを混ぜて小判形に整え、衣を付けずに油で揚げ、ソースへくぐらせる行田市の料理です。名称にゼリーとありますが、菓子のゼリーは使いません。小判形を銭に見立てた「銭フライ」が変化した名称とする説があります。明治期から子どものおやつや軽食として食べられ、材料の配合やソースは店舗や家庭によって異なります。
フライ 行田市
小麦粉を水で溶いた生地を鉄板へ薄く広げ、ねぎ、肉、卵などを加えて焼き、ソースまたは醤油で味付けする行田市周辺の料理です。名称にフライとありますが、油で揚げるのではなく、お好み焼きに近い焼き物です。農作業の合間の軽食や子どものおやつとして広まり、行田市の飲食店で提供されています。生地の厚さ、具材、折り方、味付けは店舗や家庭によって異なります。
加須うどん 加須市
小麦粉、水、塩を使った生地を足で踏み、時間を置いて熟成させ、手打ちして作る加須市のうどんです。ゆでた麺を冷水で洗い、冷たいつけ汁で食べる方法が広く知られています。不動岡の總願寺を訪れる参拝客へうどんを提供したことから発展したとされ、地域の飲食店で受け継がれています。麺の太さ、熟成時間、つゆ、薬味は店舗によって異なります。
つみっこ 本庄市
小麦粉を水で練った生地を手でちぎり、大根、にんじん、里芋、ねぎ、きのこ、肉などを入れた醤油または味噌味の汁で煮る本庄市周辺の料理です。生地を手でつみ取るように鍋へ入れることが名称の由来とされています。小麦栽培が盛んな地域で、日常の主食や農作業時の食事として作られてきました。生地の硬さ、形、汁の味、使用する野菜は家庭によって異なります。
こうのす川幅うどん 鴻巣市
幅を広く切ったうどんを、温かいつゆ、冷たいつけ汁、煮込みなどで食べる鴻巣市のご当地料理です。鴻巣市と吉見町の間を流れる荒川の川幅が広いことにちなみ、平成期に地域振興の料理として考案されました。麺幅は店舗によって異なりますが、一般的なうどんより大幅に広く、帯状の形をしています。つゆ、具材、麺の厚さ、提供方法は各店舗が独自に工夫しています。
いがまんじゅう 鴻巣市
小豆あんを包んだ小麦粉のまんじゅうを、炊いた赤飯で外側から包み、蒸して作る鴻巣市を中心とする埼玉県北東部の郷土菓子です。表面の赤飯が栗のいがに似ることから名付けられたとされています。もち米が貴重だった時代に、まんじゅうと組み合わせて量を増やす工夫から生まれました。夏祭り、収穫祝い、祝い事などに作られ、赤飯の付け方や大きさは地域によって異なります。
煮ぼうとう 深谷市
小麦粉を練って幅広く切った生麺を、深谷ねぎ、大根、にんじん、里芋、きのこなどとともに、醤油味の汁で煮込む深谷市の料理です。麺を別ゆでせず鍋へ直接入れるため、打ち粉によって汁にとろみが付きます。地域で生産される野菜を使う冬の家庭料理として作られ、深谷市出身の渋沢栄一が好んだという伝承もあります。具材や麺の幅は家庭や店舗によって異なります。
ねぎぬた 深谷市
ねぎを食べやすい長さに切ってゆでるか蒸し、味噌、酢、砂糖、からしなどを合わせた酢味噌で和える深谷市周辺の料理です。寒い時期に甘味が増す深谷ねぎなどを利用し、冬の日常のおかずや箸休めとして作られてきました。ねぎだけで作るほか、こんにゃく、わかめ、いかなどを加える場合があります。群馬県では下仁田ねぎ、栃木県では春先のねぎを使うのに対し、埼玉県のねぎぬたは深谷市周辺で深谷ねぎなどを酢味噌で和えます。
にんじんうどん 新座市
にんじんをすりおろすかペースト状にし、小麦粉へ練り込んで、橙色の麺に仕上げる新座市のご当地うどんです。新座市で生産されるにんじんを活用する料理として開発され、温かいつゆ、冷たいつけ汁、サラダ風などで提供されています。にんじんの使用量や製麺方法には商品ごとの差があり、麺の太さ、つゆ、具材も店舗や製造者によって異なります。地域農産物を活用した現代の料理です。
北本トマトカレー 北本市
トマトを使って赤く仕上げたご飯へ、トマトを加えたカレーをかけ、さらにトマトを使った具や付け合わせを載せる北本市のご当地料理です。トマトを使ったライス、トマト入りのルー、トマトのトッピングという三つの条件が設けられています。地域のトマト栽培を生かす料理として考案され、市内の飲食店が独自のレシピで提供します。辛さ、具材、トマトの調理法は店舗によって異なります。
高麗鍋 日高市
キムチ、高麗人参、日高市周辺で生産される野菜を使用し、肉、豆腐、きのこなどを煮る日高市のご当地鍋です。旧高麗郡の歴史を地域振興へ生かす料理として考案されました。キムチ、地場産野菜、高麗人参の三つを使うことが基本条件とされ、それ以外の具材、だし、味付けは提供店が工夫します。韓国料理の特定の鍋を再現したものではなく、地域の歴史を題材にした現代の料理です。
すったて 川島町
いりごまと味噌をすり鉢ですり、大葉、きゅうり、みょうが、ねぎなどを加えてさらにすり、冷水やだしでのばした汁へ、冷たいうどんをつけて食べる川島町の料理です。名称は材料をすり立てて作ることに由来するとされています。夏の農作業の合間に、身近な野菜と味噌を使って食べる料理として受け継がれました。使用する野菜、ごま、味噌、汁の濃さは家庭によって異なります。